フレックス制度導入はむずかしい?導入で社員を混乱させないポイント徹底解説!

ワークライフバランス

近年では、ワークライフバランスの体制を会社に求められるようになりました。
社員が働きやすい環境を作るには福利厚生を充実させたり、様々な制度を取り入れてみるなどの試みがあるかと思います。

今回は出退勤管理を自分で管理できる制度として利用される、フレックス制度についてご紹介します。

フレックス制度の導入は意外に簡単です。
しかし導入に伴い、社員の認識を合わせ、気持ちよく活用していただくために注意が必要です。
そこで今回は導入に成功した企業と失敗した企業の実例を通して紹介していきます。
成功企業から制度の制定基準や運用方法、失敗企業から日頃の運用で注意すべき点がわかりますので、導入を考えている企業の方は是非参考にしてみてください。

1.フレックス制度が導入しやすい企業とは
 1-1.フレックス制度とは
 1-2.フレックス制度のメリット・デメリット
 1-3.実際にフレックス制度始動に向いている業種は?
2.より良く社員に活用してもらうための運用方法をご紹介
 2-1.導入企業から学ぶ制度の設定方法
 2-2.取材からわかる制度の運用方法
3.フレックス制度導入方法
 3-1.フレックス制度導入まで
 3-2.導入で気を付けるべきこと
4.まとめ

1.フレックス制度が導入しやすい企業とは

制度導入にはどうしても向き不向きが出てきます。特にサービス業などの多くの連携が必要となる業種は導入が難しいかもしれません。
この章では、制度の説明から企業に導入するメリットと、自分の企業が導入に向いているかがわかるようになります。

1-1.フレックス制度とは

制度を導入しようにも、自分で深く理解できていなければ社員への共有が万全にできません。
そこで概要からメリット・デメリットについて説明します。
この章で自分の企業に制度が適しているのか判断できるでしょう。

フレックス制度とは、最大期間を一か月とする一定期間内の総労働時間をあらかじめ決めておき、労働者は下図のように期間内の労働時間を自由に選択することができる制度です。

http://www.loi.gr.jp/knowledge/wplaw/wplaw04-08.html
しかし、すべてが自由に選択できるということでもありません。
フレックス制度は、コアタイムとフレキシブルタイムを組み合わせて運用しています。

コアタイム:一日の中で必ず出勤していなければならない時間
フレキシブルタイム:出勤するか退勤するかを自由に選択することができる時間
※企業毎にどちらも決められます。

1-2.フレックス制度のメリット・デメリット

【メリット】
▼社員のメリット
自分で時間をコントロールすることによるモチベーションの向上
自分の予定や、子供の送り迎えの時間を自分で調節することで「この時間までに終わらせる」という意識が働きやすくなります。

業務効率化
実際に自分の時間を意識することでタスクの優先順位のつけ方、業務量を把握した働き方から結果的に業務の効率化につながります。

▼会社のメリット
ワークライフバランスが保たれ、定着率へつながる
自分の時間を意識し、自分なりの働き方ができることで会社環境が要因の離職率低下の効果が期待できます。

残業代のコストカット
社員の業務内容によってはアポイント等から必然的に残業となり、その分残業代がかかります。
そこでフレックス制度を利用して時間をずらすことで不必要な残業代を支払う必要がなくなります。

採用面のアピールにつながる
制度を導入することで、新卒・中途への採用活動にも効果が期待できます。
ワークライフバランスの体制のある会社として認識されやすくなります。

【デメリット】
デメリットとしては、主に業務面があげられます。
コアタイム以外の業務の連携がしづらい
・社員間のコミュニケーション機会の減少

上記の二点など、コアタイムを過ぎて連絡を取りたい社員が退社してしまえば連絡がつかず、業務の遅れが生じる可能性があります。
こちらを改善する方法として、データの共有方法・連絡手段の確保など企業ごとで対策をしなければなりません。
こちらは、フレックス制度導入を検討しているのであれば、必ず検討しなければいけない大きい問題です。

1-3.実際にフレックス制度始動に向いている業種は?

では、どの様な業種で導入されているのでしょうか。
内容によって取り組めない業種はいくつかあります。
実際にフレックス制度を導入している企業は、下図のとおりです。

http://u0u1.net/IxbR

内閣府男女共同参画局がだしたフレックスタイム制を導入している企業の割合の推移の調査によると、社員数が1000人以上いる大企業に導入されている傾向であることがわかります。会社数で置き換えると大体20社に1社しか導入していないのが現状です。

次に厚生労働省が出している就労条件総合調査から業種別にフレックス制度を採用している企業の割合を見ていきましょう。

http://www.hataraku.metro.tokyo.jp/tokyorodo/keyword/36.html

導入に向いている企業は、個人間の業務が多く、ほかの部署や社員と密に作業を行わなくてもよい業種といえるでしょう。

理由として働き方が個人化できる仕事内容であると取り入れやすいとされています。
よって情報通信業は自分の技術や能力を必要とし、ネットワーク上でつながることができます。
会議の手法をスカイプやチャットなどのネットワークを利用することで導入しやすくなります。

次章は、制度を導入した企業をご紹介します。
導入した企業をみて制度運用のヒントを知ることができます。

2.より良く社員に活用してもらうための運用方法をご紹介

フレックス制度導入には、向き不向きがあります。しかし、向いている企業でも制度を廃止する企業はいくつかあります。
今回は制度導入で成功した企業と失敗企業を紹介します。
どちらも知ることで制度導入で躓かないようになりますのでぜひ参考にしてください。

2-1.導入企業から学ぶ制度の設定方法

▼成功企業
ファイザー株式会社(医療用医薬品事業)

1974年にフレックス制度を導入しており、2つのコアタイムを設けて実施しています。
①10:00~12:00
②14:00~16:00

また、金曜日の標準労働時間を短くすることで、金曜日に早く退社することを促す仕組みとして取り入れられています。

標準労働時間:
月~木 9:00~18:00
金   9:00~16:00

そしてこちらの会社では、制度の効果を高めるために取り入れている工夫として「ウィークエンドフレックス」があります。
上司の了承が得られれば、金曜日の午前のコアタイムが終了後、午後のコアタイムの勤務が免除になるというものです。
この制度を使うことで、半休休暇を使用しなくとも金曜日は正午に退社できるため、旅行やリフレッシュをする時間にあてることができるようになっているそうです。

三井物産ロジスティクス・パートナーズ株式会社(不動産投資信託)
長時間労働が当たり前の社風だったのを問題視し、意識改革と制度変更から大きく変化を遂げました。その一つの取り組みとして社員からの声で導入したのがフレックス制度でした。

コアタイム:11:00~15:00
全員が揃うコアタイムに向けて自分の仕事の時間を調整するので、自然と協力体制も強くなったそうです。普段は定時で働いているものの、子供を病院に連れて行きたいといった、いざというときのセーフティネットになるので、精神的にすごく安心感があるという声があがっています。

また、社員と密にコミュニケーションをとり、働く環境を整える意見を多く聞く機会を作っています。こういった日々の取り組みからワークライフバランスの体制が整っているといわれるホワイトアロー企業100選に選ばれました。

▼失敗企業
伊藤忠商事株式会社(総合商社)
制度を導入したところ、運用方法から下記の問題が起きました。
・社員の認識のすれ違い
・遅い時間の出社・退社の常習化

社員の出社時間がコアタイムぎりぎりの遅い時間へ後ろ倒しになり、朝のお客様の電話が取れなくなるといったことが起きるようになったそうです。
長い間フレックス制度を導入した結果社員の認識が遅く出社できるという認識になってしまったのが運用のミスでしょう。

そこで制度を廃止し、朝型勤務の導入に変更しました。
朝型勤務の概要として、20時には仕事を終え、終わらない場合翌日の始業前に出勤します。
翌日朝勤務(朝5時~8時)には、深夜勤務と同様の割増賃金を支給(時間管理対象者は150%、時間管理対象外の社員にも25%を支給するという制度です。
よって朝に仕事を回すということは、始業前には終わらせなければならないという意識が強まり、残業でだらだら業務を行うより効率を重視した勤務体制に変化したそうです。

よってフレックス制度をただ導入するのではなく運用方法や問題点の解決を必要になってきます。導入時期が長くなり安定した制度運用ができても、社員の制度の活用方法を日々チェックしていくことが大切です。
次に失敗しない制度導入をうまく行っていくための具体的な方法を企業インタビューしてきましたので参考にしてください。

2-2.取材からわかる制度の運用方法

今回取材させていただいたのは、ヒートマップツール「USERDIVE」の開発・提供とWebサイト改善のコンサルティングを行っている「株式会社UNCOVER TRUTH」です。
2017年にフレックス制度を導入したとのことで導入に至るまでの配慮すべき点について詳しく伺ってきましたのでご紹介します。

株式会社UNCOVER TRUTH人事部長濱田様(左)と人事制度企画担当藤尾様(右)にお話をお伺いしました。

“株式会社UNCOVER TRUTH”

    • 所在地
      東京都渋谷区初台1-47-3 小田急初台ビル5F
    • 事業内容
      ヒートマップツール「USERDIVE」の開発&サービス提供
      Webサイトの改善コンサルティングサービス
    • URL
      https://www.uncovertruth.co.jp/ja/

UNCOVER TRUTHのフレックス制度
清算期間:1ヶ月間
コアタイム:10:30〜17:00
利用対象:全社員

制度を利用するうえでの決まりごと
・人に迷惑をかけない
弊社社員だけではなく、クライアントや面接者との時間の調整に注意する

・チャットやカレンダーで出社時間を記入する
休みなのか出社しているのか全社員が把握するため

――導入のきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
「主に社員からの以下のような相談を受けていました。それぞれの事情を考慮し、各社員のパフォーマンスを上げてほしいという願いから、フレックス制度を導入しました。」
・平日にしか行けない銀行や区役所へ出勤前に行きたい
・体調不良だが、少し休めば出社できる
・子供が熱を出したから、病院に行ってから出社したい

――導入への道のりを教えてください。

「実際の導入までは検討⇒トライアル導入⇒正式導入までに約3ヶ月かかりました。とりあえず一か月間トライアル期間で導入してみて、そこから出た混乱を解決していきました。
混乱としては、以下があげられました。
・朝会の有無
・フレックス制度を利用できる社員の制限

朝の情報共有をする朝会は実施しないのか?などの議論が起こりました。弊社はチャットでのコミュニケーションが主流ですが、顔を合わせる時間が大切という結論に至り、出社しているメンバーのみで実施していくことにしました。

その他、フレックス制度は、社員のパフォーマンスありきの制度です。そのため、結果を出している人のみが使用できるようにした方がいいのではないかという案も議題にあがりましたね。」

――全社員利用できていますか?
「裁量労働型の社員以外はすべてフレックス制度を利用できています。例えば人事でいうと中途採用の面接になると21時ごろまで会社にいることも少なくはなく、残業が必要になります。
それが一か月続くとパフォーマンスの低下やモチベーションの低下に繋がってしまいます。
しかし、フレックス制度を利用してもらうことで、次の日の出勤時間が調整できますので、その問題が解決します。

今年から、19年卒の新卒採用を行っていますが、もし入社してもらった場合は、すぐにフレックス制度には利用させない方向で考えています。
それは、社会人のマインドと立ち居振舞いをちゃんと教えないといけないと思っているからです。
そのまま間違えた社会人生活を送ってしまうとその人のためにならないですしね。」

――業務連携のやり取りはどうされているのですか?

「弊社は基本的にチャットでやり取りを行う社風であり、ほとんどの情報がチャットツールのクラウド上に入っているので、業務の滞りなどは特にありませんでした。
それはフレックス制度だからというわけではなく、リモートワークを行う社員や直行直帰の営業マンでも場所を問わず業務出来るようにしていたからです。

しかし、他社からのオフィス宛の電話に出る必要はありますので、朝早くに出社する社員はいます。そのしわ寄せはゼロではないですね。」

――運用するために行っていることはございますか?
「制度を作るうえで常に考えなければならないことですが、権利だけを主張されないように制度を作っていかなければなりません。

制度導入にあたっては、みんなの協力がないと制度は廃止になる可能性を事前に伝えておくことが大事でした。
ここだけ伝えていれば、細かなルールを作らなくてもうまく制度が回っていくと考えています。

それでも逸脱した行動をとる人は面談を行っています。
あくまでパフォーマンスありきの制度ですので、朝は遅くに出社して仕事が残っているのに退社する社員がいた場合は、早めに芽を摘んでおくように面談しています。」

――フレックス制度を運用した効果はありましたか?

「大きな効果は残業時間が減ったことです。朝の時間をずらすことができるので、通勤ラッシュに巻き込まれず、体力の消耗も最小限に抑えられた結果パフォーマンスの向上につながったんだと思います。」

導入する企業へなにかアドバイス等ありますでしょうか。
「制度を作成するうえで細かいルールを作る必要はないと思います。社員にとって使いづらい制度を作っても何の意味もないですからね。とりあえずトライアルで導入してみればいいと思います。運用していく中で問題点が出てきたら解決しての繰り返しだと思います。」

――ありがとうございました。

3.フレックス制度導入方法

ここでは導入するうえで必要な決めごとをご紹介します。
導入にはいくつか注意点もありますので社員の混乱が生まれないよう、きちんと把握しましょう。

3-1.フレックス制度導入まで

導入へは、主に制度を利用する社員と会社で規約を結ぶ必要があります。
それぞれの決めごとの設定方法を紹介いたします。

①就業規則の変更
労働基準監督署に就業規則を「始業・就業の時刻を労働者の決定に委ねる」と変更し、提出します。

②労使協定の締結
労使協定とは、事業場に労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、そのような労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者(従業員代表者)と使用者で書面による協定を締結することを指します。

▼対象労働者の範囲
全従業員を対象に導入しないことも可能です。部署ごとや個人など、様々な範囲で適用することができます。

▼清算期間と起算日
清算期間とは、フレックス制度において労働者が労働すべき時間を定める期間のことです。最長一か月の範囲内で決定します。
起算日は、清算期間の初日となる日を定めます。例として、末締めの会社は、1日となり10日締めの会社は、11日となります。

▼清算期間における総労働時間
清算期間内に労働すべき時間(所定労働時間)について決めなければなりません。
総労働時間は、法定労働時間と同じかそれより少なくなければならないので注意が必要です。
総労働時間の算出方法と法定労働時間の総枠を参考にしてください。

■算出方法
清算期間における総労働時間≦(清算期間の暦日数 / 7日) × 1週間の法定労働時間

■総労働時間の総枠
<清算期間>  <法定労働時間の総枠>
31日       177.1時間
30日       171.4時間
29日       165.7時間
28日       160.0時間
7日        40.0時間

3-2.導入で気を付けるべきこと

・残業代
フレックス制度を導入したからと言って残業代をカットできるわけではありません。しかし残業代の考え方は変わりますので説明します。
清算期間中の労働時間を超えたら残業代として賃金を支払わなければなりません。
例:)
【11月】
法定労働時間:171時間
実際の労働時間:181時間
→10時間分の残業代を支払わなければなりません。

・総労働時間に満たなかった場合
総労働時間に満たなかった場合、下記の2つの方法で給与や時間を調整することが可能になります。
こちらは、翌月の勤務の忙しさなどを考慮して考えることが必要になります。

①不足した分の賃金のカット
②不足した時間を翌月へ繰り越す
例:)
【11月】
総労働時間:160時間
実際の労働時間:150時間
不足時間:10時間
給与:25万円

【12月】
総労働時間:160時間+不足時間(10時間)
給与:25万円

①不足した分の賃金カット
11月で浮いた労働時間10時間分の賃金を給与から差し引くことができます。

②不足した時間を翌月へ繰り越す
11月で浮いた労働時間10時間を12月に繰り越すことができます。

注意すべき点として11月の給与は、総労働時間(160時間)分支払わなければなりません。
そのため12月の給与は前払いと同じ感覚で11月に10時間分支払われているため、繰り越した分多く支払うことはありません。

社員へ認識の共有
制度を導入する際に社員への利用方法の共有は必須になります。しかしフレックス制度は複雑であるがゆえに理解がなかなか難しいです。どういう制度か、会社でどんな決まりを作ったのか説明を密に行いすり合わせましょう。共有不足になると制度自体が運用されず廃止の道をたどることになりかねませんので、運用の経過として社員の声を聞いたり、運用に問題はないかチェックするよう徹底しましょう。

[共有不足で起こる事象] ・上司の理解が不足し、ミーティングがコアタイム外に行われ、結局定められた時間に出勤することになってしまう
・出勤が後ろ倒しになるという認識が定着しがち(始業時間にだれもいないことが起きてしまう)

・ルールの制定
導入企業ごとにルールを決めることで社員の混乱を防ぐことができます。
ただし、あまり多くの決まり事を作ってしまうことは社員にとって使いづらい制度となりますので、あくまで共通認識をつくるという部分に収めましょう。

4.まとめ

いかがでしたか。
フレックス制度を導入するまでの企業の取り組みや運用の秘訣など、参考になりましたでしょうか。
あなたの企業にもぜひフレックス制度を取り入れて、社員の働きやすい環境へ会社を変化させていくことで大きなブランディングの一つに繋がります。