裁量労働制がベストとは限らない!?自社に合う労働スタイルを導入しよう

ワークライフバランス

最近では、働き方が見直され今までとは違った働き方を導入する会社も多くあります。
そんな新しい働き方のひとつ、裁量労働制をご存知ですか?
裁量労働制は、労働者が裁量権を握り、業務の時間配分などを決めることができる一見すると夢のような制度です。
しかし、裁量労働制には適用できる職種が決まっており、制度をしっかりと整える必要があります。
また、裁量労働制以外にも多くの労働スタイルが存在しています。
そこでここでは、裁量労働制についての情報や様々な労働スタイルを解説していくので、自社にとってベストの働き方の参考にしてみてください。

1.裁量労働制とは何か
 ・裁量労働制とはどんな働き方?
 ・適用できる職種とは?
 ・「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の違い
 ・裁量労働制は勝手に導入できない
 ・社員にとって得なのか?
2.自社で使えるベストな働き方フローチャート
 2-1.裁量労働制とベストの働き方
 2-2.それぞれの制度の説明
3.裁量労働制で起こったトラブル集
4.まとめ

1.裁量労働制とは何か

裁量労働制を導入するのか検討する前に、まずは裁量労働制について知る必要があります。
どんな働き方であり、どんな職種に適用できるかを理解しておかなければ、裁量労働制を導入することはできません。

・裁量労働制とはどんな働き方?

裁量労働制とは、労働時間制度のひとつであり、業務を行う労働者が大幅な裁量権を有しています。
業務を遂行するための方法や時間配分などは、労働者が決定することができます。
給与については、実際の勤務時間ではなく、契約によって決められた時間を働いたとみなして支払う制度です。

例えば、「みなし労働時間」が8時間という雇用契約を締結しているとします。
そして、ある日は3時間働き、翌日に10時間働いたとします。
この条件の場合、どちらの日も8時間働いたものとみなされるのです。
また、10時間働いたからと言った残業代はありません。

・適用できる職種とは?

適用できる職種は、決められており、どんな職種でも適用できるわけではありません。
下記の画像に記載されている業務を行なっている職種は、裁量労働制を適用することができます。
主に、クリエイティブな業務や専門的な業務を行なっている職種が対象となっています。

(引用:東京労働局https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/library/201541153120.pdf

・「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の違い

裁量労働制は、「専門業務型裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」の2つに分けることができます。
専門業務型裁量労働制とは、業務の性質上、労働者の裁量にゆだねることにより、労働者が能力・成果を発揮することができる場合にのみ適用できます。
先ほど紹介した業務が専門業務型裁量労働制に適用するものであり、クリエイティブな業務や専門的な業務となっているのです。

企画業務型裁量労働制とは、労働者の中でもホワイトカラーを対象にしたものです。
企業にとって中核を担う部門や経営に関与する部分での業務を担う労働者が適用の対象となっています。
具体的には、企業における経営に関係する部分での企画や立案、調査・分析を行う労働者が対象となっているのです。

これらのことから、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の違いは、業務による違いとなっています。
専門業務型裁量労働制では、クリエイティブな業務や専門的な業務を担っている労働者が対象であり、企画業務型裁量労働制では企業の中枢を担う労働者が対象となっているのです。

・裁量労働制は勝手に導入できない

裁量労働制は、対象の職種だからと言って勝手に導入することはできません。
まず、裁量労働制を導入するためには、会社と労働者側が労使協定を締結し、労働基準監督署に提出しなければなりません。
そのために、企画業務型裁量労働制を導入する場合、労使委員会を組織し、十分な話し合いをして様々なことを決めなければなりません。
労使委員会では、「裁量労働制を対象とする業務範囲」「対象労働者の具体的な範囲」「労働したとみなす時間」などを決め、労使委員会の委員4/5以上の多数による決議が必要となっています。
このように、裁量労働制を導入するためには、労働基準法に則った手続きが必要であり、勝手に導入することはできないのです。

・社員にとって得なのか?

社員にとって重要なのは、裁量労働制が得なのか損なのかではないでしょうか。
裁量労働制の導入による損得は、条件によって異なります。
1日何時間働いたとしても、裁量労働制では「みなし労働時間」だけ働いたことになります。
そのため、みなし労働時間の設定によって、社員にとっての損得が出てくるのです。
社員としては、みなし労働時間以内に業務を終わらせることができれば得になります。
その反面、みなし労働時間以内に業務が終わらない場合、損になってしまうのです。
ですから、裁量労働制を導入するときには、条件をしっかりと確認する必要があります。
社員にも選択権があるので、不利な条件で裁量労働制を導入されそうになった場合には、拒否するべきでしょう。

2.自社で使えるベストな働き方フローチャート

裁量労働制は、働き方の1つであって、必ずしもベストとは限りません。
業務効率を考えると、自社にとってベストの働き方を導入するべきです。
ベストの働き方を探す上で、ヒントになるフローチャートを用意してみました。
そこで、フローチャートを使って、ベストの働き方について解説していきます。

2-1.裁量労働制とベストの働き方

裁量労働制は、すべての職種に導入することができる働き方ではありません。
ここまで紹介してきたように、裁量労働制には専門裁量労働制と企画業務型裁量労働制があります。
そして、フローチャートにあるように、それぞれ対象となる職種が決まっているのです。
裁量労働制の対象となる職種は、クリエイティブな業務や専門的な業務となっています。
この理由は、裁量労働制にすることで、創造力を活かしやすい職種だからです。
裁量労働制の対象とならない職種では、別の働き方でベストの制度を導入するべきです。
働き方の制度としては「みなし残業制」「フレックスタイム制」「年俸制」などが挙げられます。
そのため、それぞれの特徴やメリット・デメリットを知り、自社にとってベストの働き方を導入するべきです。

2-2.それぞれの制度の説明

・みなし残業制

みなし残業制は、固定残業制度とも言われる働き方の制度となっています。
簡単に説明すると、基本給や年俸にあらかじめ一定の残業代が含まれている制度です。
そのため、毎月固定でみなし残業代をもらうことになります。
みなし残業制には職種制限がなく、労働者すべてを適用対象にすることが可能です。
ただ、みなし残業制が適している職種は、営業職など成果が見えやすい職種となっています。
営業職のように直行・直帰があるなど、会社側が労働時間を把握するのが難しい職種にみなし残業制は合っているのです。

〈メリット・デメリット〉
みなし残業制は、会社にも労働者にもメリットがあります。
会社側のメリットは、決められた一定時間内の残業の場合、残業代の計算をする必要がなくなります。
そのため、面倒な業務を減らすことができるのです。
労働者側のメリットは、たとえ残業時間が少なくても、一定の残業代を受け取ることができることです。

そんな、みなし残業制ですがデメリットも存在しています。
みなし残業制のデメリットは、不適切な運用をされるリスクがあることです。
たとえ、みなし残業制を導入していても、みなし残業代の基礎となる時間を超えて働けば、労働者は超過分の残業手当を受け取ることができます。
しかし、みなし残業制を不適切な運用をしている会社では、「みなし残業制だから」という理由で、超過分を支払わないケースがあるのです。
このように、みなし残業制は不適切な運用をされるリスクがあるため、労働者にとってはデメリットも存在していると言えるのです。

・フレックスタイム制

フレックスタイム制とは、1カ月以内の一定期間の総労働時間をあらかじめ定めておき、労働者がその総労働時間内で労働時間を自由に決定できる制度となっています。
フレックスタイム制を導入する場合、コアタイムを設定するのが一般的です。
コアタイムとは、必ず出勤しなければならない時間のことです。
フレックスタイム制だと、社員が全員揃う時間帯が無くなり、コミュニケーション不足となることが考えられます。
そのため、コアタイムを設定し、全社員が揃う時間帯を設定するのが一般的なのです。

〈メリット・デメリット〉
フレックスタイム制のメリットは、業務効率が良くなることが挙げられます。
業務の忙しさに応じて、勤務時間の調整ができるため、業務効率の向上につながり、残業時間の削減に役立ちます。
デメリットは、社員同士のコミュニケーション不足に陥る可能性が挙げられます。
コミュニケーション不足を解消するために、コアタイムを設定しても、今度はコアタイムに要件が重なり、業務効率が悪くなるケースもあります。

・年俸制

年俸制とは、1年単位で算出する給料体系のことです。
プロ野球選手やプロサッカー選手の年俸をイメージするとわかりやすいと思います。
最近では、一般企業でも年俸制を導入する会社があるのです。
ただし、労働基準法の関係から、年俸全額が一括で支払われるわけではありません。
年俸制でも、給与は毎月1回以上支払わなければならないのです。
そのため、毎月給料日には、年俸の1/12が支払われるのが一般的です。
年俸制は日本よりも海外で主流となっており、日本に進出している外資系企業の多くが年俸制を採用しています。
海外は成果主義の傾向があるため、年俸制が適しているのです。
また、職種としてはエンジニア・プログラマーも年俸制を採用していることが多くなっています。
専門的で高度なスキルを求められるため、成果に応じた報酬を受けやすい年俸制がエンジニア・プログラマーには合っているのです。

〈メリット・デメリット〉
年俸制のメリットは、1年間の計画が立てやすいことにあります。
企業側・労働者側どちらにしても、計画が立てやすいです。
企業側としては、人件費が確定するため、運営計画が立てやすくなります。
労働者側としては、1年の給与が確定するため、長期的な経済計画を立てやすくなります。
このように、企業側・労働者側どちらにもメリットがあるのです。

企業側にとってのデメリットは、契約期間中に給料を変更することができない点です。
年俸制は新年度に人件費が確定する反面、年度内の人件費を変更することができません。
そのため、想定しているよりも成果をあげられない労働者がいたとしても、年度内は給料を下げることができないのです。
労働者のデメリットは、成績が残せないと年俸が減少することです。
年俸制は、成果主義と相性が良く、年俸制を導入している会社の多くが成果主義を採用しています。
そのため、成績を残せない場合、労働者は次年度の年俸が下がってしまうデメリットがあるのです。

・最近はフリー出社制度も…

最近では、新しい働き方としてフリー出社制度を導入している会社もあります。
フリー出社制度とは、出退勤の時間や仕事場所の制限をなくした働き方です。
イメージとしては、リモートワークと考えることができます。
好きな時間に好きな場所で、働くことができるため、労働者としては仕事と生活の両立がしやすくなるのです。
採用する人材の居住地が関係なくなるため、人材確保にもつながります。
フリー出社制度は、評価面やコミュニケーション面でやや不安がある制度ですが、注目されている働き方のひとつなのです。
実際にフリー出社制度を導入している企業が株式会社CINRAです。 Webサイト制作やサイト運営を手掛けている企業であり、2017年5月に1ヵ月のフリー出社期間を実験的に行い、8月から正式にフリー出社制度を導入しています。
参考サイト:http://hrnabi.com/2017/10/20/15408/

コラム:36協定について
労働者に時間外労働(残業)や休日労働をさせる場合、会社は労働組合と36協定を結ぶ必要があります。
36協定を結ばずに、労働者に残業や休日労働をさせると違法になってしまいます。
そのため、残業や休日労働が発生する会社は、必ず36協定を結ばなければならないのです。
36協定の有効期間は、最短で1年となっています。
1年以上の場合、特に制約はありません。
しかし、1年ごとに見直すのが一般的です。これは、会社の情業は年度ごとに見直すことが多く、その際に36協定についても見直すことが多いからです。
36協定は、監査は1番に目を付けるところとなっています。
それだけに、残業や休日労働がある会社は、必ず36協定を結ぶようにしましょう。

3.裁量労働制で起こったトラブル集

裁量労働制は、注目度が高い反面点も多い制度となっています。
そのため、すでに裁量労働制によるトラブルが起こっているのです。
そこで裁量労働制で起こったトラブルの事例を紹介していきます。

・野村不動産の事例

裁量労働制の悪い事例としては、野村不動産の事例が有名となっています。
野村不動産は、2017年12月25日に裁量労働制の違法適用があったとして、特別指導をされているのです。
同社では、約600人の社員に企画業務型裁量労働制を適用していたのですが、裁量労働制の対象にならない営業職などの社員も適用されていたのです。
しかも、違法適用された男性社員が2016年9月に過労自殺していたことがわかっています。
男性社員は1カ月当たり最大180時間もの長時間労働があったことも判明しており、労災認定されているのです。

まさに野村不動産の事例は、裁量労働制の悪い事例と言えます。
企業側のメリットのみを考え、違法適用したことによって、社員が長時間労働を強いられてしまったのです。
裁量労働制には適用できる職種があるため、導入する際には適用できる職種の労働者のみを裁量労働制にしなければいけません。
そうしなければ、違法であり、トラブルに発展する可能性があるのです。

・エーディーディーの事例

京都のソフトウェアメーカーである株式会社エーディーディーでも、裁量労働制のトラブル事例があります。
同社でシステムエンジニアとして勤務していた元従業員が、裁量外の労働をしていたとして残業代等約1,600万円を請求したのです。
これは裁判に発展し、原告側(元従業員)の勝訴となり、会社側に約1,140万円の支払いを命じています。

この事件で争点になったのは、原告の労働が裁量労働に該当するのかです。
原告の業務内容は、システムエンジニアの業務だけでなく、プログラミングや営業活動なども行っていたとのことです。
しかも、タイトな納期やノルマが設定されていたことが主張されています。
裁判所は、プログラミングや営業の業務は裁量労働に満たしていないと判断したのです。

この事例でも、問題になったのは裁量労働制に該当する業務か否かです。
裁判によって、プログラミングや営業の業務は裁量労働制に満たしていないと判断されています。
裁量労働制を導入するなら、このようなトラブルに発展しないように、適正な運用をしなければいけないのです。

・トラブル事例から見る対策方法

野村不動産とエーディーディーのトラブル事例から、裁量労働制を導入した際に、トラブルを未然に防ぐための方法が見えてきます。
まず、裁量労働制を導入するときには、本当にその業務が裁量労働制に該当するのかを徹底的に調べることです。
裁量労働制が認められていない業務で運用してしまうと違法であり、トラブルに発展する可能性が高くなります。
そのため、裁量労働制の導入前には、その業務が裁量労働制に該当するのかチェックするのが、トラブルを未然に防ぐ方法のひとつです。

また、適正な仕事量なのかもポイントになります。
膨大な仕事量を裁量労働制の適用をしている労働者に課せば、必然的に残業せざるを得ない状況となります。
それでは労働者側に不満が募り、トラブルに発展する可能性があるのです。
そのため、裁量労働制を適用している労働者に対し、適正な仕事量を割り振ることが、トラブルを未然に防ぐ方法のひとつなのです。

4.まとめ

裁量労働制について理解することはできましたか?
紹介してきたように、裁量労働制には適用できる職種が決まっています。
適用できない職種に裁量労働制を導入すれば、違法適用でトラブルに発展する可能性が高いです。
そのため、裁量労働制の導入の前に、適用できるのか検討してください。
また、裁量労働制だけがベストの働き方とは限りません。
最近では、みなし残業制やフレックスタイム制、年俸制などもあります。
様々な働き方の中から、自社にとってベストの働き方を探してみてください。