【戦略人事】従来の人事との違いは?押さえるべき4つのポイントと成功事例を徹底解説

人材・教育

突然ですが、あなたは戦略人事という言葉を知っていますか。
今注目されている戦略人事、知っているか知っていないかでは企業の成長に大きく差がつくでしょう。

戦略人事とは、会社の動きや問題を捉え、人事面において施策を立案・実行することです。
従来の人事はルーチンワークをメインに行ってきました。
人事がルーチンワークだけをやっているようでは、企業は成長するチャンスを逃すこととなります。大切なのは、人事も経営の一端を担う気持ちで、経営戦略に沿って人事戦略を行うことです。

この記事では一見難しそうに感じる戦略人事を、どこよりも分かりやすく紹介していきます。
戦略人事の考え方や押さえるべきポイント、企業事例まで網羅的に紹介していき、戦略人事とは何かに迫っていきます。

戦略人事の考え方を吸収し、”人材”面から企業を活性化させましょう!

1.戦略人事とは会社の動きを捉え、人事面において施策を立案・実行すること
 1-1.戦略人事の流れ
 1-2.戦略人事が注目される背景
 1-3.企業における戦略人事の定義づけ
 1-4.従来の人事から戦略人事化するためには
2.戦略人事における企業が押さえるべき4つのポイント
3.【成功事例】戦略人事に力を入れている企業
 ①『伸ばすべき事業に伸ばせる人をはる』ことを根底とした適材適所を実践しているサイバーエージェント
 ②全社員が人事部の肩書を持つ面白法人カヤック
4.まとめ

1.戦略人事とは会社の動きを捉え、人事面において施策を立案・実行すること

戦略人事とは、会社の動き・問題を自分ごとに捉えた上で、人事面において「何をすればいいのか」を考え、立案・実行することです。
また戦略人事は、競合他社との競争優位を獲得するために戦略を行うので、俗に攻めの人事とも呼ばれます。

1-1.戦略人事の流れ


http://www.fujitsu.com/jp/microsite/group/fjm/strategic-hr-forum/strategic-human-resources/about/

戦略人事は、上記の流れで遂行されます。
まずは”ゴール”に位置付けられている経営戦略を明確にすること。そして、経営戦略を人事戦略に落とし込み”戦術”を立てていきます。最後に立案された人事戦略のもと、人材マネジメントにあたる”仕組みづくり”を行い、実行するという一連の流れです。

戦略人事をいざ行動に移そうすると、考えること・行動するべきことは格段に増えます。

1-2.戦略人事が注目される背景

企業は、人材が重要だと思うがばかりに、人事戦略だけが一人歩きし経営と切り離されていました。本来は、経営戦略に沿った人事戦略が必要になるはずなのにです。
これでは経営戦略を幾ら完璧に立案しようと、その施策を落とし込む人材がいない状態です。このままでは戦略達成することは非常に難しいでしょう。

そういった状況から生まれた考え方が、戦略人事になります。
戦略人事が経営戦略の要として遂行されることで、よりスピーディー且つ的確に戦略を実行することが出来ます。

また、企業を取り巻く環境が変化していく中で、今やよりスピーディーに優秀な人材を確保する必要性も高まってきています。企業のグローバル化やIT技術の急進等、今までと環境が変われば、その環境に対応できるよう、経営戦略を行います。

1-3.企業における戦略人事の定義づけ

それぞれの企業が置かれた状況や抱えている課題によって、戦略人事は定義づけされます。
そのため、各社各様の戦略人事が存在し、戦略内容・アプローチ方法も異なります。
戦略人事に取り組む前に、まずは企業の課題がどこにあるのかを洗い出すことが重要になります。
下記は、日本の人事部 人事白書2018(https://jinjibu.jp/keyword/detl/961/)内の「戦略人事をどのように定義しているか」に対しての回答の一部分です。

・経営戦略と人事機能の連携・連動
・個人の成長、達成欲求と組織の成長、存続欲求を高次元で両立させる施策・
コスト構造の改善」
・主張できる個 等

 

戦略人事の施策において、正解はありません。
あくまで企業が抱えている課題にアプローチしていくことが必要となってきます。

1-4.従来の人事から戦略人事化するためには

従来の人事では、ルーチンワークがメインとされてきました。
ルーチンワークに多くの時間を割いているようでは、人事戦略に割ける時間をとることが出来ません。

そのためには、ルーチンワークを縮めることがカギとなってきます。
昨今注目されているHRテックを活用することは、ルーチンワークの効率化を図るポイントになります。
HRテックについては下記の記事で詳しく紹介していますので、合わせてご覧ください。

・「HRテックとは?」をどこよりもわかりやすく説明します!今、人事が求める理由
https://and-l.jp/magazine/hrtech/

・戦略的人事の為のHRテック入門【サービス紹介付き】
https://and-l.jp/magazine/hrtech-service/

人事部はルーチンワークだけにとどまるのではなく、人事面において、いかに経営戦略に沿った人材を発掘・配置できるかが大切になります。

単純作業しかできない人材では、人事は務まりません。
人事こそ、『広い視野を持ち、自分ごとに捉えて考え行動する』ことが出来る優秀な人材が務めるべき職種になります。

2.戦略人事における企業が押さえるべき4つのポイント

ここでは戦略人事において、押さえるべきポイントを経営側・人事側の両面で紹介していきます。
戦略人事に取り組む際に大切になってくるので、ポイントを把握・理解していきましょう。

〈経営陣側〉

・経営戦略を明確化する

まずは経営陣が、経営戦略を明確にすることが大切です。
経営戦略という土台が明確でなければ、人事面でどう戦略していくか立案・実行することが出来ません。
自社の課題がどこにあるのかを洗い出し、人事戦略に落とし込めるよう具体的な経営戦略を立てましょう。

〈人事側〉

・人事のトップが経営者と同じ目線で動く

人事戦略が経営戦略と別物にならないよう、経営戦略をしっかりと理解し、人事側に浸透させることが重要です。
そのため、役員として経営会議に参加できるCHRO(人事最高責任者)を設置することも一つの手段です。

従来の人事トップは、役員会で決まった方針に沿って『業務執行上の責任者』として指示を忠実に遂行することに注力していました。
しかしCHROは、従来の人事トップとは異なります。

経営戦略において、人事側で何が出来るのか立案・実行までをけん引する立場です。そのため、人事役員として『売り上げの拡大』『利益の向上』に責任を負うことにもなります。
CHROから人事部に戦略を落とし込むことによって、人事全体が主体性を持って行動するよう促すことが出来ます。

・人事全体で経営的な視点を持つ

人事責任者だけでなく、人事全体が経営的な視点を持つことが重要です。
経営的な視点とは、会社の動き・問題に対して、何を行えばいいのか考え実行することです。
目の前のルーチンワークを早くこなすことだけに力を注ぐのではなく、経営戦略を達成するために人事としてどういう対策を打てばよいのか、常に意識をもって行動することが必要です。

また、そういった意識づけを行うためにも、CHROもしくは同等レベルの立場の人が、人事に対して常に呼びかけることも大切です。

・社内全体の動きや問題を把握する

人事戦略において、社内全体の状況を把握していないと最善の策を打つことは難しいです。
『経営的な視点を持つ』という意識づけが出来たら、実際の行動に移すことが大切です。まずは、会社の動き・問題を把握する広い視野を身に付けましょう。

例えば、他部署との合同ミーティング実施や他部署に自席を設ける等、実際に状況を見ることができ、意見を吸収できる環境に身を置くことが大切です。
こうした取り組みを通して、人事部にとどまらない広い視野を持つことが出来るようになるでしょう。

3.【成功事例】戦略人事に力を入れている企業

1章でも紹介したように、戦略人事は企業の状況・課題において、企業ごとに取り組むべき内容は変わってきます。ここではどういった課題を感じてどういった施策を打ったのか、戦略人事のイメージが湧きやすいように、企業事例を紹介していきます。

①『伸ばすべき事業に伸ばせる人をはる』ことを根底とした適材適所を実践しているサイバーエージェント


https://www.cyberagent.co.jp/way/features/list/detail/id=13280

サイバーエージェントでは、戦略人事として、タレントマネジメント(人材の適正配置)に力を入れています。従業員が4,000人を超え、多くのグループ・子会社を抱えるからこそ、適正に人材を配置することが事業を伸ばす要となってきます。
より人材が成果を上げられるように構築された、タレントマネジメントの徹底的な仕組みづくりについて紹介していきます。

〈戦略人事に取り組んだ経緯・目的〉

4,000人を超える正社員が在籍する中、人事異動や採用をほとんど感覚で決めていた部分があったそうです。
現在活躍している社員が入社面接の時の評価がどうだったか、前部署での活躍がどうだったか等を振り返る、といったことをしていなかった。そうすると、面接での評価方法も改善されない…そういった状況を打破するために、タレントマネジメントに注力し始めました。

〈主な取り組み事例〉

・社員のコンディションやキャリア志向、趣味、課題などをヒアリングする仕組み「GEPPO」


https://www.cyberagent.co.jp/way/features/list/detail/id=13280

社内開発システム『GEPPO』を使用し、毎月従業員の現状をヒアリング・把握し、蓄積しています。
例えば「今後教育に関する事業に携わりたい」というキャリア志向や、「アニメが好き」といった趣味嗜好まで、人物像がわかるデータを採取しています。

シンプルな設問設計のため、従業員の回答負担は少なく、回収率は96%と高い数字を誇っています。課題や要望について細かく対応策を決めコメントに返信したり、社員との面談を実施しその内容から異動などを提案したりもしています。

・有効なタレントマネジメントを行うことを目的として設置された「人材開発部」

Geppoを通して、従業員と向き合うことをミッション化した専門の部隊を作ることが重要だと考え、人材開発部が設置されたそうです。
数多くある社員に関するデータを一元管理、分析する『人材科学センター』と、実際に異動や抜擢などの適材適所を実行するために、面談や事業責任者ヒアリングなどを行う『キャリアエージェントグループ』が存在します。

この2つの部署が、人事データ分析・配置の専門性を磨くことで、4,000人を超える従業員・多様な事業展開を抱えながらも、新規事業のチーム構成等の重要な意思決定をより的確に行うことが出来ています。

・全社員が各部署の業務内容、人材ニーズを把握できるシステム「キャリバー」

キャリバーは、全社のさまざまな部署のポジションニーズを可視化できる、社内版求人サイトです。
「他の部署が何をやっているのかわからない」「こういう人材がほしいけど、社内にアピールする手段がない」という意見のもと、ニーズを叶えたいという思いからキャリバーが誕生しました。

300を超えるポジションがエントリーされており、その中から「職種」「事業部」「技術スキル」「求める人物像」で検索、自分が興味のある部署を探すことができます。
また、各部署の求人情報が掲載されているページには、「部署情報」「求める人物像」「部署の雰囲気」「問い合わせ先」の4つが記載されており、常日頃から他部署のことを知れる場となっています。

・社員自らの意思で異動希望を出せる制度「キャリチャレ」

社内異動公募制度である『キャリチャレ』は、年2回実施され、現部署での勤務年数が1年以上であれば他部署やグループ会社への異動希望を出すことが出来ます。
キャリバーができたことで社内にどんな職種があるのか、ポジションニーズがあるのかが可視化され、明確な意思をもった応募が増えたそうです。

また、各求人の「問い合わせ先」から事業部メンバーと直接コンタクトも取れるので、自ら進んで情報を取りに行くことも可能です。
データでは測れない本人同士の率直な対話もとても重要だと考えられているため、直接コンタクトを取ることも積極的に推奨されています。

・役員が人事についてのみ徹底的に話をする「人材覚醒会議」

半年に一度、役員が社員の更なる能力の引き上げを目的に、育成計画を話し合う『人材覚醒会議』が実施されています。
社員が急増している中で、どの部署でどういう人材が活躍しているか、社員の能力に合わせてこんなチャレンジの機会を与えてみよう、と社員がより成長する方法を徹底的に話し合われています。

これは事業部単位でも実施しており、実際にゲーム業界で成果を出した人材が注力分野への異動が決まったり、後々の異動決断の材料に影響を及ぼしたりと、全社視点で適材適所を考える大きな機会になっているそうです。

②全社員が人事部の肩書を持つ面白法人カヤック


https://www.kayac.com/company/institution/alljinji/

カヤックでは『ぜんいん人事部化計画』のもと、全社員が人事部の肩書を持ち、仕事を担っています。
面白く働ける環境を作るために全社員が自分ごととして会社を捉え行動できるよう、人事異動が持ち掛けられました。全社員の意識の醸成はもちろん、社員全員が人事部になったことで企業に合った人材からの応募が増え、採用コストが25%下がった効果も出ています。
そんな少し変わった取り組みであるぜんいん人事とは一体どういった取り組みなのか、紹介していきます。

〈戦略人事に取り組んだ経緯・目的〉

社員それぞれが「より面白く働ける仕組み・環境を考える」ために、全社員が人事部の肩書を持っています。これには、カヤックの人事部に与えられたミッションを、一部の社員だけで実行するよりも、全社員で考えたほうがいいという思いも込められています。
全社員が人事部に所属することで、現場の声が反映された実現可能性が高い施策が出てくること。そして人事部の仕事を通じて、会社のじぶんごと化が促進されることを期待し、取り組みが始まりました。

〈主な取り組み事例〉

・社員が「この人と働きたい!」と思う人に特別選考を提示できる「ファストパス」


https://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20141017/272717/

全社員が人事になった今、特別選考へ誘致する権利を全社員が持っています。
より面白く働くために、企業の理念に共感できそう・活躍できそうと思う自分の周りにいる人を見つけ、選考へ進めることが出来ます。
全社員が「ファストパス(書類選考免除券)」を持ち、一部の社員はいきなり最終面接に招待することができる「ラストパス」を持っています。
また、人事の肩書を持ったことで、各社員の採用に対する意識が高まり、ソーシャルメディアを使った採用活動等で、採用コストが25%削減を達成しています。

・一緒に働いていた社員からのフィードバックコメントをもらう「360度フィードバック」

半年に一度、全社員間でそれぞれが成長するための指摘・アドバイスが行われています。
この取り組みを運用する際には、「自分と仲間を成長させる」という意識を社員が持てるように徹底しているそうです。
コメントは、上司だけではなく、同僚や後輩、もしくは指名した別部署の社員からももらうことができ、集まった全てのコメントが実名で公開されます。
またシステム上には、それぞれの自己評価や振り返りも記載されています。半年間の自分の目標を最初に入れて達成度合いを振り返る人もいれば、「どのように成長できたか」「どのように人と関わったか」などの半年間の歩みを綴る人もいるそうで、社全体で意識の底上げを行っています。

・社員の月給を社員同士の相互投票で決める「月給ランキング」


https://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20141017/272717/

同職種の社員同士にて相互投票を半年に一度実施し、そのランキングと比例する形で月給の昇給額が決定する制度です。「自分が社長になったつもりで社員を報酬順に並べてください」という問いの元、各メンバーを評価し、それを元に各自の固定給が決定されます。
「社長になったつもり」というのはそれぞれの主観ですが、主観の集まりは意外に正しく、その組織がいちばん大切にしている価値観であり、納得感・公平感が出ると考えられているそうです。

また年2回行われるぜんいん社長合宿では、全社員が”自分がカヤックの社長だったら…“という観点で、用意されたお題についてチームごとにブレスト・プレゼンを行っています。
こういった取り組みを通して、会社を自分ごととして捉える意識づけを行っています。

4.まとめ

戦略人事は企業によって定義づけが異なるため、どのようにすれば正解というものはありません。
戦略人事を行っていくには第一に、企業全体の動き・課題を捉えることが重要です。そしてその状況に沿って、最善の策を検討していく必要があります。
人事がただのルーチンワークをする部署で終わるのではなく、経営の一端を担う部署として、広い視野をもって行動することを意識づけていきましょう。