少ない人的資源で、多額のコストをかけずに成長することをめざすベンチャー企業にとって、事業を拡大させるためにも優秀で即戦力になる人材を1人でも多く確保したいというのが本音ですよね。
しかし、新卒でも転職でも、もともと大手企業志向が強い日本では、ベンチャー企業に対する不安感を抱く人が多いのも事実です。
2019年3月卒業予定の男女大学生約1000人を対象に行われたアンケート調査によると、ベンチャー企業への就職に関心がある学生は約25%という結果が出ています。
企業独自の強みがあることや仕事の裁量が大きいこと、成長スピードが早いことなどに魅力を感じている学生が多い一方で、約50%の学生はベンチャー企業への就職に関心がないというデータも同時に出ています。
ベンチャー企業にとっては、優秀な人材を確保するには採用に工夫が必要と言えそうです。
https://www.disc.co.jp/wp/wp-content/uploads/2018/01/2019monitor_201801.pdf
とはいえ、国内でも個性あふれるベンチャー企業が多く生まれ、成長してきているのも事実。今や採用においても様々な工夫がされています。
そこでこの記事では、ベンチャー企業ならではの採用アプローチの考え方や具体的な採用方法について解説した上で、さまざまな採用に関する取り組みの事例を紹介していきます 。
1.採用ターゲットを明確化しよう
2.成功企業がやっている採用手段
2-1.ベンチャー企業向けの求人媒体
2-2.採用イベントへの参加を積極的に
2-3.求人媒体や採用イベント以外の手段で自社の魅力を存分にアピール
2-4.応募を待つのではなく積極的にアプローチ
3.自社ならではの取り組みを実施しているベンチャー企業
3-1.独自の選考方法
3-2.インターンを活用した採用方法
3-3.広報効果を上手に行かした採用活動
4.まとめ
1.採用ターゲットを明確化しよう
企業として今後確実に成長していくには、良い人材を確保しなければいけません。
急ぐがあまり取り急ぎ採用した結果、すぐに退職されてしまった…といった事態になると、採用のために割く労力や時間が無駄になりとても非効率です。
より少ない時間で、コストをなるべくかけずに自社に合った人材を確保するには、採用したい人材のターゲットを明確にすることが大切です。
ベンチャー企業に欠かせない採用ターゲットの明確化について、特に重要となるポイントをまとめましたので参考にしてみて下さい。
・欲しい人材のターゲットを設定する
ベンチャー企業のほとんどは、ゆっくり時間をかけて採用アプローチをしていくという方法は取れない事が多いでしょう。少ないアクションで求める人材を見つけていくには、自社の理念やビジョンに共感し経営目標に賛同できるか、求める知識やスキルを備えているか、主体的に学ぶ意欲があるかなど、欲しい人材のターゲット像をしっかり設定することです。
業種や事業内容、職種によって求める要件は異なりますから、採用を考えるポストに置きたい人材はどういった能力を持っていてほしいのか、ターゲットの設定基準を熟考しましょう。
・ペルソナ設計を行う
採用ターゲットが設定できたら、その基準を言語化します。
より明確に欲しい採用ターゲット像をイメージするには、社内全員でイメージを共有して採用活動を行う必要があるので、共有しやすいよう言葉を使ってペルソナを設計します。
例えば、
「つらい状況でも自分の意見を言える、積極的にアクションした経験がある人」「将来独立を考えている人」「過去10年以内に何かに熱中したことがある人」「飛び込み営業を●年経験した人」など、明文化することで、より具体的なペルソナが見えてきます。
注意したいのは、ペルソナ設計を行う際には経営陣にも確認しながら進めるということです。企業理念やビジョンとマッチするペルソナでなければならないため、採用担当者だけで考えず、経営陣と意識共有しながら進めましょう。
・採用ターゲットへの訴求方法を考える
採用ターゲットを設定し、採用ターゲットのペルソナを設計できたら、そのペルソナにマッチする人材に向けて自社の訴求ポイントを考えていきます。
事業内容や携われるプロジェクトの規模が大きい、担当する業務の裁量が多くスピーディーに進められる、経営者相手のプロジェクトが多い、社内だけでなく社外の人脈を生かして新しい視点のプロジェクトに携われる可能性があるなど、採用ターゲットから関心を持ってもらえる項目と内容を検討し、上手にアピールしていく方法を決めます。
たとえばエンファクトリーの「専業禁止」の文化は、社員は組織に属するというよりは個人で活動するものという考えを基本として、組織に属していても離れていてもお互いに利益を渡し合い共生するというものです。
また、面白法人カヤックの「サイコロ給」は社員の評価を上司や組織ではなく天に任せるという斬新な制度で、評価をしない評価制度として注目を集めています。同社には仲間を褒めると支給される「スマイル給」という制度もあり、社員の自主性やネットワークの広がりを重視しているのです。
こうしたベンチャー企業ならではの工夫は、採用ターゲット層への訴求にはとても効果的です。人材そのものは世の中にあふれていますが、自社にフィットする人材に効率よくアプローチし、またターゲット側からも関心を寄せてもらうためには、ベルソナ設計を中心に採用ターゲット像を明確化し、注目される企業制度を通した独自の企業文化をアピールすることが重要でしょう。
これらの具体事例については、目次3で紹介します。
2.成功企業がやっている採用手段
日本でも年々ベンチャー企業の数が増えていますが、事業が成功し急成長したことによって名前が知られているのは一部のベンチャー企業にすぎません。多くのベンチャー企業は、業界でこそ社名や事業内容が知られていても、求職者にまで広く知られているかというとそうではない企業の方が多いでしょう。
しかし、名前や事業内容が一般的に知られていなくても、コストをかけずに実行できる採用方法はたくさんあります。事業活動と同時進行で採用活動をしなければならないベンチャー企業だからこそ、ぜひ導入したい採用手段について紹介していきます。
2-1.ベンチャー企業向けの求人媒体
現在もっともよく使われている採用手段は、インターネットで展開されている求人媒体です。
特に、ベンチャー企業に特化しているサイトはベンチャー企業への就職・転職を狙っている人が閲覧していますので、採用ターゲットとのマッチング率は大手求人サイトよりも高いと言えます。
・Green
https://www.green-japan.com/contents/lp/ssh/bouken
IT業界やWeb業界を中心に約6000件のベンチャー企業求人情報が掲載されています。求人情報の掲載期限がない、採用ができた時点での成功報酬制というのが特徴で、採用できない場合にコストが無駄になることがありません。
また、登録者のデータベースから欲しい人材をピンポイントで検索し、採用担当者側からアプローチできるダイレクトリクルーティング方式を活用できるため、より効率的な採用活動が可能です。
・Wantedly
月間200万人の利用者が活発にやりとりしているSNS型求人サイトです。募集要項はフリーなので、文章だけでなく画像で社風をアピールしたりブログ機能を使ってリアルな社内の声を伝えることができます。
学生へ直接スカウトメールを送信し、カジュアルに会社訪問をしてもらうなど、距離の近い採用活動を展開できる特徴があります。
・Amateras Online
独自のスタートアップ審査を実施し、成長ポテンシャルが高い優良ベンチャー企業を厳選して求人情報を掲載しているサイトです。経営幹部ポジションの求人募集情報を多く掲載している点や、企業のCEOが登録者に直接スカウトメールを送ってやり取りする方式を採用しており、欲しい人材をピンポイントに、迅速に採用できるシステムが整っています。
国内だけでなく海外のベンチャー企業も数多く登録している世界最大のビジネス系SNSです。
検索機能によって採用候補者を絞り込み検索して情報を保存・管理することができるため、国内外から広く適した人材を探したい企業向きです。メールボックスで候補者と直接やりとりができ、迅速な採用活動を進められます。
・startup
「無名の若者の創業期に投資し成長を支援する」という理念のもと、ベンチャー企業やスタートアップに特化している求人サイトです。
登録者の多くが起業家精神にあふれており、起業ブランドや現時点での報酬額よりも、創業期から成長期にある有望なベンチャー企業で力を試したいという考えを持っていることから、ベンチャー企業とより的確なマッチングが期待できます。複数の大手求人サイトと提携しているため、100万人を超える求職者のデータベースから人材検索ができるのも嬉しいですね。
2-2.採用イベントへの参加を積極的に
すでに企業名や事業内容が知られているベンチャー企業はほんのひと握りで、大半のベンチャー企業は求職者に企業名や事業内容を知られていません。その為、採用ターゲットに知ってもらえるよう接触する機会を増やすアクションも有効です。
特に効果的なのは、ベンチャー企業への就職を希望している求職者が集まる採用イベントや就活イベントにブース出展し、採用ターゲットに直接訴求するという方法もあるので、一度試してみても良いかもしれません。
・情熱フェスタ
https://www.passion-navi.com/staticpages/jonetsu_festa
「内定直結型イベント」というコンセプトで、全国5か所で開催される採用イベントです。優良ベンチャー企業の社長が集まり、直接採用ターゲットをスカウトすることが可能です。
参加者がチームを組んでプレゼンを行うシステムなので、採用ターゲットの持つスキルや素質などをチェックすることもできます。
・インターンシップガイド
https://internshipguide.jp/Pages/oishiibusiness
ベンチャー企業に特化したマッチングイベントです。座談会や立食形式のフリートークタイムなどが設けられ、ベンチャー企業に就職や転職を希望する学生・社会人と本音でアプローチし合えます。
参加者のリストを共有できるため、後日のアプローチも可能です。
2-3.求人媒体や採用イベント以外の手段で自社の魅力を存分にアピール
求人媒体には掲載期限がありますし、採用イベントも基本的には単発的な接触方法です。掲載や参加にはコストがかかる上、採用イベントの場合はイベント当日に拘束されるため、労力や時間が限られているベンチャー企業にとっては、名前を知ってもらえる方法とはいえ常に使える手段とは言えない場合もあるでしょう。
求人媒体や採用イベントを利用するにはコスト的な制限がある場合は、無料で使えて採用ターゲットにすぐアプローチできるサービスを利用するのもひとつの方法です。
・SNSを活用する
FacebookやLinkedIn、TwitterなどのSNSは、企業や経営者を採用ターゲットに知ってもらうためにはとても効果的なツールです。
無料で利用できるだけでなく、求職者に対してダイレクトにアプローチできるため、スピーディーな採用をめざしたい場合は有効な手段と言えます。
・求人媒体を兼ねたSNSを併用する
たとえば前章でも紹介したWantedlyは、エンジニアやデザイナーなどの技術系人材の求人に強いため、特定の職種の人材が欲しい場合に活用したいサイトです。
利用にあたって無料プランを使って登録者と直接やりとりできるため、SNSと併用することでより確実に求職者にアプローチできるでしょう。
・自社のWebツールを整備する
社名や事業内容が知られていないベンチャー企業にとって、自社の理念や事業体制、取り組んでいるプロジェクトや実績、取引先企業などの情報を対外的にアピールできるホームページは必須のWebツールです。
上記の固定ページに加えて、ブログを組み込んで社内の様子やイベント情報、商品やサービスの紹介などについて日常的に定期更新することで、検索で訪問してきた採用ターゲットにどんな企業なのかをしっかり伝えることができます。
・経営者自身がブランディングを行う
中小規模のベンチャー企業は、経営者自身が企業そのものを象徴した存在として認知されるケースが多いです。
そのため、経営者が積極的にSNSを更新したりメディアの露出を増やすことで、認知される機会が多くなると、結果的に企業そのものへの認知度や関心も高まって注目度の高い企業になれる可能性があります。
採用ターゲットが関心を持つようなブランディングを経営者自らが積極的に行うことも、広報活動を兼ねた採用手法と言えるでしょう。
2-4.応募を待つのではなく積極的にアプローチ
・ダイレクトリクルーティング
従来の採用活動は、企業側が出した募集要項を見て求職者がアプローチするという形が一般的でした。
しかし近年は、企業側が採用ターゲットを設定し、その条件に合致した候補者を探して、公開人材データベースやSNSなどを通してアプローチする「ダイレクトリクルーティング」という手法が広まりつつあります。
求職者に対してフランクに接して、まずは自社に興味を持ってもらうというアプローチだと応募者が集まりやすいようです。成長著しいメルカリなどはこうした手法で人材を確保しています。
スカウト型の就活サイトながらユニークなアプローチができるのが「ニクリーチ」です。登録している学生に対して企業側からアプローチをするのですが、焼き肉を食べながら学生と交流し、採用ターゲットとなりうるかの見極めと自社のPRができるというもの。フランクな雰囲気で双方がコミュニケーションを取ることで、一般的な採用活動では見えにくい学生の素質や性格が把握できる可能性があります。
また、スマートフォンのアプリですき間時間を使った求職活動ができると求職者に人気がある「キャリアトレック」というサービスもあります。送られてくる求人情報の中で興味のあるものだけを選んでいくと、システム側で関心のある求人の傾向を覚え、より希望に近い条件の求人情報をすすめてくれるレコメンド型求人サイトです。企業側としても興味をより強く持ってくれる求職者と出会いやすいため、登録する価値はあるでしょう。
こうした手法は労力や時間はかかりますが、企業側からアプローチすることで他社よりも早く優秀な人材を確保できる可能性があります。
・リファラル採用
社員に採用候補となる人物を紹介してもらうという最近増えてきている手法です。いわゆるコネ採用ではなく、企業の理念や事業内容を熟知した社員から見て条件やスキルなどが適していると考えた人材を紹介してもらうというものです。適した人材が欲しい時に見つからない可能性があるため、安定した採用手法ではありませんが、マッチング精度が高く、定着率がいいというメリットがあります。
・アルムナイ制度
過去に在籍していたOBやOGを再雇用する制度です。創業して数年経ったベンチャー企業は、スピーディーなプロジェクト展開に合わせて人材の確保が必要なことも多いため、この制度を導入するケースが増えています。退職した理由にもよりますが、既に自社や事業内容、業務内容や求められるスキルなどについて熟知している人材ですので、育成に時間がかからず即戦力として活動してもらえるというメリットがあります。
このように人材の採用についてはさまざまな手法があります。採用コストをなるべくかけずに採用活動ができるこうした手法を積極的に活用することで、ベンチャー企業の課題である優秀な人材の確保をすばやく実現できる可能性が広がるでしょう。
3.自社ならではの取り組みを実施しているベンチャー企業
採用に関する自社ならではの取り組みを行うことは、ベンチャー企業への就職や転職を考えている人に対して最大限に自社のアピールができる手法です。他のコンテンツサイトで取り上げてもらえる機会が増えれば、採用活動を通した広報活動にもなり、企業の認知度をアップさせることにもつながります。
ここからは、そんな独自性溢れる採用活動に取り組んでいる企業事例を、カテゴリー別に紹介していきます。
3-1.独自の選考方法
・株式会社ぱど「ジャンケン選考」
運のいい人、つまり運がいいと自分を信じるマインドの人材と仕事がしたいという社長の意向で決まった制度。会社説明会の参加者に対してジャンケン大会を行い、優勝者は次回いきなり役員面接に進めるのだとか。
・チームラボ「卒制/卒論採用」
志望動機や学歴などは一切不要、卒業制作や卒業論文のみで採用選考を受けられる制度です。自己PRや履歴書ではなく、学生時代に夢中で作ったもので評価するという企業側の姿勢は、デザイナーやエンジニア志望の学生には非常に魅力的に映るはずです。
3-2.インターンを活用した採用方法
・株式会社じげん「長期インターン」
ビジネス職とエンジニア職において、希望する学生が6ヶ月以上の長期インターン生として活動できます。スキルや実績によって事業開発や全社横断のプロジェクト推進開発といった業務に携わるそうですから、対象者は想像以上に大きな裁量を与えられることで非常に有益な経験ができるでしょう。
・株式会社HDE「海外出張同行のかばん持ちインターン」
海外出張に行く社員に学生を同行させて、現地でニーズの把握や課題の発見を行う目的でのインターンを受け入れています。学生は成長の機会を与えられ、企業側は優秀な人材と接触できるという双方にとってメリットのあるインターンモデルを提供しています。
・株式会社サイバー・バズ「学生版助っ人採用」
新規事業の即戦力として、1ヶ月半学生をインターン生として採用するというもの。学生は事業責任者の直属の部下として活動できますし、企業側は意欲あふれる学生と近距離で接触できます。成長したいと意気込む学生との出会いの場を提供する姿勢は、企業の積極的な採用意欲を感じさせます。
3-3.広報効果を上手に行かした採用活動
・リクルートキャリア「GIB(GOAL IN BONUS)」
所属部署の目標が達成されると、1人につき最大20万円の旅行費用が支給される制度です。社員4人以上で1泊以上するという旅行条件がついており、3人以下だと支給額が半分に減額されます。目標を達成した喜びを共有し、チームワークを強化させる目的で導入されたこの制度、対象となった社員の9割以上が部署を問わず旅行に出かけるのだそうで、他部署との交流という別のメリットも得られているようです。
・株式会社エンファクトリー「専業禁止制度」
社員にパラレルワーク(複業)を推奨する制度です。社員が社内だけの業務にとどまらず、社外で個人事業主やNPO、ボランティアといった立場でも活動を行っていきます。
そこから広がった縁を自社に還元することで事業を促進させる目的で導入されているのです。
「専業禁止」と会社として打ち出している企業は、今の時代でも珍しいです。
・面白法人カヤック「ライバル指名制度」
社員が他の社員をライバルとして指名し、半年後に全社員の投票によって勝敗を決められるという制度です。勝った社員には賞金3万9千円(サンキュー)が贈られるのだとか。
ライバルと切磋琢磨しながら成長し合い、競争することを楽しむ文化をつくる目的で導入されたそうで、社員のモチベーションアップにつながりそうですね。
4.まとめ
優秀な人材は欲しい、けれど採用活動にコストや時間をかけられない、これはベンチャー企業のジレンマでもあります。しかし採用活動とはこうあるべきという固定概念を取り払って、独自の採用制度を工夫して設定すれば、採用ターゲットにマッチした人材に関心を持ってもらえる可能性は少なくありません。
特にインターネットを駆使すれば、全国の求職者を対象に採用活動をすることもできるのです。
この記事を参考に、コストをかけずに実行できるベンチャー企業ならではの採用活動の工夫を考えてみることをおすすめします。