どうアプローチすべき?正解がない「人事評価」5つの進め方

人材・教育

人事評価(人事考課)は、企業やチームの発展に欠かせない仕組みです。
満足度が高い人事評価によって従業員のモチベーションが上がり、それによってサービスや商品の精度が充実します。
チームを左右する大切な要素だけに、マネージャーや部門責任者になると「これほど難しいものはない!」と感じる方も多いのではないでしょうか。

ここでは、人事評価の目的、正しい進め方、最新動向などを解説します。人事評価を改善したい経営者や管理者のヒントになれば幸いです。

(目次)
1.人事評価の目的と効果
 1-1.人事評価には正解がない
 1-2.好き嫌いで評価するのはNG
 1-3.人事評価のよくある勘違い
2.人事評価の進め方
 2-1.「実績評価」と「能力・役割評価」
 2-2.「能力・役割評価」はあいまいになりやすい
 2-3.多面的な視点からの人事評価
 2-4.人事評価のフェーズ
 2-5.「5段階方式」で検証するのが一般的
3.人事評価の新しい考え方
 3-1.グローバル企業のリアルタイムの人事評価
 3-2.トヨタの人間性を重視した人事評価
4.最後に:部下からの不服申立に注意!
5.まとめ

1.人事評価の目的と効果


人事評価(人事考課)の意味は、「従業員の組織に対する貢献度と現時点の能力を評価し、給与や賞与に反映するもの」です。さらに本質を深掘りしていきましょう。

1-1.人事評価には正解がない

はじめに「人事評価は何のためにやるのか?」を確認してみましょう。
目的が不明確だったり、方向性が間違っていたりすれば、人事評価が組織にマイナスの影響を及ぼします。
人事評価の分野で豊富な実績を持つコンサルタント・大津章敬さんは著書の中で、人事制度についてこのように語っています。

最後にして最大の山場となるのが人事評価制度です。
なぜなら、人事評価は、人事制度における永遠の課題であり、最も正解がない分野だからです。

引用:『中小企業の人事評価・賃金制度 つくり方・見直し方』(日本実業出版)

人事制度とは、この分野で多くの実績を持つ専門家ですら「正解がない」というほど難しい世界です。
そのため、仮定・実証・改善を繰り返して、企業や部門に合った手法を見つけていくしかありません。
他社の実例を取り入れれば上手くいくほど簡単ではないことを理解してください。

1-2.好き嫌いで評価するのはNG

よく言われることですが、上司や人事担当の「好き嫌い」で従業員を評価するのは、間違った人事評価の典型です。
しかし、頭で理解していても、いざ評価をする場面になると「主観的な感情」で評価してしまうのが人間です。

脱・好き嫌いの人事評価をするには「評価の軸」を作ることが大切です。この評価の軸のベースになるのは、「企業理念やミッション」です。
企業とは、理念やミッションを達成しつつ、利益を拡大するために存在します。
この理念やミッションがしっかりしていれば、部門や個人の目標や方向性を明確にしやすくなり、それに沿って客観的な人事評価がしやすくなります。

1-3.人事評価のよくある勘違い

人事評価におけるよくある勘違いは、「成果を出している従業員を評価するため(逆に、成果が低い従業員を指導するため)」に行うというものです。
このような浅い考え方で人事評価を実施すると、上司の顔色を伺う部下ばかりになり組織が弱体化します。

前項に登場した人事評価のコンサルタント・大津章敬さんによれば、人事評価には次のような様々な役割があります。

①社員に期待される仕事のレベルや必要とされる能力を伝えることによって、人材育成を行うため
②会社や部門の目標・計画を共有し、その進捗を管理することによって、目標達成を促進するため
③社員の強み・弱みを把握することによって、適材適所を実現するため
④人事評価に基づく定期的な面談を行うことによって、組織内のコミュニケーションを流出させるため

引用:『中小企業の人事評価・賃金制度 つくり方・見直し方』(日本実業出版)

このように人事評価には多様な側面があります。単に、従業員の給与・賞与を査定する、昇進の材料にするといった狭い視野ではなく、

・従業員の教育
・上司部下のコミュニケーション促進
・社員がより力を発揮しやすい環境づくり

などに貢献するのが人事評価です。

2.人事評価の進め方


人事評価には様々な手法がありますが、ここでは一般的な手法をご紹介します。

2-1.「実績評価」と「能力・役割評価」

人事評価では、営業、技術、事務などの職種に関わらず、「実績評価」と「能力・役割評価」の2つの方向から人事評価が行われます。

・実績評価とは?

会社や部門には、目標とする利益や職務量があります。実績評価では、その数値を個人レベルでどれだけ達成できたかを検証します。
ただし、結果を追うだけでなく、目標を達成する前段階のプロセスにも着目し、精度を上げるための改善点がないかを話し合うのが理想です。
この部分の評価が高い人材は、賞与で優位になると考えるのが一般的です。

・能力・役割評価とは?

会社や部門ではそれぞれの従業員の役割が明確に決められています。その求められている役割を実行し、どれだけ組織に貢献したかを評価します。
これを厳密に行うには、階層や職種ごとの役割を定義する必要があります。この部分の評価が高い人材は、昇給・昇格で優位になると考えるのが一般的です。

2-2.「能力・役割評価」はあいまいになりやすい

実績評価は、「目標売上×××万円」「月間業務量××個」のように指標がつくりやすいので比較的、評価がしやすいといえます。
一方、能力・役割評価は指標があいまいになりやすく、客観的な評価がしにくいといわれます。

それだけに、評価項目を明確にして「この項目では5段階中3の評価」といった風に透明性のある評価を行っていく必要があります。
評価項目の例は、次の通りです。

・経営理念に基づいて行動しているか?
・所属部門のミッションを理解して実践しているか?
・スキル向上に前向きに取り組んでいるか?
・部下や後輩のフォローをしているか?
・お客様満足度を高める努力をしているか?     など

2-3.多面的な視点からの人事評価

最近では、人事評価を直属の上司以外の視点で行う会社も増えています。
これは一般従業員の間で「正当に評価されていない」「上司の好き嫌いで評価されている」という不信感が根強いからです。
また一人の上司がすべての部下に目配りするには限界があります。
これを補うため、「自己申告」「同僚からの評価」「顧客の評価」などの視点からの人事評価が考えられます。

・自己申告

評価される従業員自身が目標を設定し達成率をチェックします。自己評価が甘すぎる、厳しすぎるといったことがないよう、管理者は適正な評価になるようフォローします。

・同僚評価

上司から見えない部分を知るために行います。たとえば、オフタイムに後輩の相談によくのっている、トイレの清掃を率先してやっているといった具合です。
この部分の評価が少なければ、「成果さえ上げればいい」「上司に気に入られればいい」という雰囲気が強まってしまう可能性があります。

・顧客評価

顧客アンケートや対面ヒアリングを行い、渉外を担当している個人やチームの印象や満足度を確認します。
さらに実際にどれくらいサービス・商品をリピートしてもらえているかなども参照にします。

2-4.人事評価のフェーズ

人事教育研究所が運営するWEBサイト『人事評価・人事考課の基本』(http://www.sabcd.com/01kihon/)では、人事評価のポイントを解説しており、それによると面接は次の3つのフェーズから構成されるとのことです。

・新たな期に望む段階の「目標面接」
・途中段階の「中間面接」
・その期が終わった後に行う「評価・育成面接」

同WEBサイトが推奨する、それぞれの面接でのポイントは次の通りです。

・目標面接のポイント

高すぎる目標、期待より低い目標、部門方針と違う目標は調整が必要です。また、達成レベルや期限が明確でない目標は上司のフォローにより修正していきます。

・中間面接のポイント

必ずしも行う必要はありません。目標と現実に落差が発生した時に実施します。
たとえば、計画より進捗が遅れている、目標達成が難しい、部下の態度や行動に問題があった時などです。

・評価・育成面接のポイント

まずは部下の自己申告を聞きます。具体的には、達成・未達成の項目とその要因をヒアリングします。
その上で上司自身の評価を説明。部下の評価と上司の評価の落差を埋めていきます。

2-5.「5段階方式」で検証するのが一般的

一般的な人事評価では「5段階方式」が採用されています。
たとえば、各項目に「S・A・ B・C・D」の5段階を設定し、真ん中のBを基準として、成果を出せている人(あるいは努力が足りない人)は「S・A」側、成果を出せていない人は「C・D」側に振り分けるといった具合です。

ただし、同じ5段階方式でも「相対評価」と「絶対評価」の2つの方法があります。「相対評価」は各ランクの割合が予め決まっているものです。
「絶対評価」は評価の点数によってランクが決まり、あるランクに集中しても構いません。
また5段階方式では評価しにくい地域貢献や委員会活動などについては、「加点のみの特別枠」を設定する企業もあります。

実際にどのような評価項目を設定するかは企業ごとに大きく異なります。テンプレートの流用よりも、自社の理念・ミッション・業態・規模などをベースにオリジナルの評価の仕組みを構築しましょう。
そうはいっても、テンプレートも気になると思います。たとえば下記のWEBサイトは内容が充実しています。参考にしてみてください。

人事戦略研究所WEBサイト:http://jinji.jp/samplesheet/sheet01.php

3.人事評価の新しい考え方

ここ数十年、ビジネス環境は大きく変化し続けています。
「年功序列から成果主義」「縦型の組織からフラットな組織」「意思決定にスピードが求められる」といった激変の中で、
従来の人事評価が機能しなくなってきたという指摘もあります。

そんな中、新しい人事評価の考え方が登場し始めています。すぐに採用するかは別として、ビジネスパーソンの予備知識として抑えておきましょう。

3-1.グローバル企業のリアルタイムの人事評価

新しい人事評価の考え方として、グローバル企業の間で「ノーレイティング」が採用されています。
これは通常の「年度ごとの目標設定・評価」ではなく「リアルタイムの目標設定・評価」を行う手法で、グローバル企業に次々採用されています。
この分野にくわしい松丘啓司さんは、エンジャパンのインタビューに次のように答えています。

2012年頃からアメリカ企業において、年次評価を廃止する企業が増えています。
ギャップ、アドビシステムズ、マイクロソフト、GE、アクセンチュアなど名だたる企業もすでに導入しており、今後も拡大していく傾向です。

引用:人事評価はもういらない!?「ノーレイティング」が突きつける評価制度、その課題
https://corp.en-japan.com/success/3434.html

この仕組みが広がってきた背景には、スピーディなビジネス環境の中で、年単位、半年単位といった長いスパンの人事評価が機能しづらくなっていることがあります。
そのため、上司と部下は頻繁にコミュニケーションを取り、チームの方向性や個人の目標達成度を確認していきます。

どれくらいの頻度で、上司と部下がコミュニケーションするかは、その企業によって違います。
1ヶ月に1回、あるいは1週間、2週間に1回など上司・部下双方の負担にならないよう設定する必要があります。

3-2.トヨタの人間性を重視した人事評価

言うまでもなく、評価する側の上司も人事評価の対象になりますが、トヨタの管理者層の人事評価では「人望」という項目があるそうです。

人事考課は「課題創造力」「課題遂行力」「組織マネジメント力」「人材活用力」「人望」の5項目から構成されており、
「人望」は全体の10%もの評価割合を占めます。

引用:東洋経済オンライン『トヨタの人事評価で「人望」を重視する理由』
http://toyokeizai.net/articles/-/73092?page=4

人間性に着目した人事評価のメリットは、部下とのコミュニケーションが丁寧になることです。
一人ひとりの部下に合わせて時間をかけて指導していくといった雰囲気がつくられるようです。

たとえば、チームワークが欠如する部門を率いることになったある管理者は、「3カ月の間、毎日、従業員たちと1対1の会話をし、個々人の考え方を理解」していったそうです。

4.最後に:部下からの不服申立に注意!

注意したいのは、最近は人事評価に納得しない、あるいは、不服申立をする若手社員が増えていることです。
ひと昔前のような「上司が言うことは絶対」という若手社員が減っていることを実感している管理者も多いでしょう。

ダイヤモンドオンラインの「人事考課で上司に噛み付く部下が急増中!なぜ若手社員は評価に納得しないのか」(http://diamond.jp/articles/-/10951?page=5)では、不服申立の具体的な様子がレポートされています。


「聞いていいですか!私の仕事ぶりにトピックスが無いとおっしゃいますが、いつ確認したのですか。月に数回しか会話しない状況で評価を下されては納得できるはずありません」(ECサイト運営のDさん・27歳)


「当初に決めたことは全部クリアしたはずなのに、前回と同じ評価とは納得いきません」(商社勤務のGさん・26歳)

このような事態に陥らないための方策として記事内では、仕事ぶりを丁寧に見ることが大切とした上で、次のようなアドバイスをしています。

 こうした若手社員の要望に対して上司は応えていく必要があるでしょう。
そのために初期の目標設定を丁寧に行い、途中で状況確認を行い、さらに途中で目標達成が困難そうならサポートをしたり、目標の修正を行う。
まさに「目標管理のPDCA」の徹底です。

それでも人事評価トラブルが起きてしまった時は、人事部やさらに上の役職者を交えて、「外部の方の目」の中で話し合うことが大切です。
他の人に知られたくないと抑え込むことは逆効果で、退職につながったり、第3者機関に持ち込まれたりするリスクがあります。

“評価されているあなたへ”

評価する側の人間も、これまで1度も評価されたことがない、ということはありません。
優遇/不遇にかかわらず、かたよりを全く持っていない人なんていない、ということも理解しています。
だからこそ、評価は慎重に行わなければならないし、行ってくれているんだと、評価される自分が信頼を持ってあげることも必要です。

それでも、自分は不当な評価を受けている!これは思い込みではない!!とそんな渦中にいる方へ。
まずは会社を巻き込まず、冷静な視点を持ってくれる第3者機関に頼りましょう。

厚生省 こころの耳 http://kokoro.mhlw.go.jp/beginner/

厚生省 あかるい職場応援団 https://www.no-pawahara.mhlw.go.jp/inquiry-counter

他にも社会保険労務士・弁護士といった相談窓口があります。
カッとなって会社での立場をもっと悪くする前に、プロに頼って打開策を打てるようにしましょう。

 

5.まとめ

人事評価とは、「人が人を評価する」もの。
どれだけ制度を整えてもシステマチックな公平感を生み出すことは出来ませんし、評価する側、される側の評価基準も、その時・その時代にあった流動性があります。
だからこそ、評価する側に回った場合は評価される側の考え方・目線に気を配る必要があり、それは人事評価を行う機会だけでは理解しきれないでしょう。

日々のコミュニケーションを大切に、結果だけでなくそこまでの過程も考慮してあげることこそ、今必要とされる正しい人事評価なのかもしれません。